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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)19号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否を判断する。

1 成立に争いない甲第三号証(願書添付の明細書)及び第五号証(昭和六二年一〇月一六日付け手続補正書)によれば、本願発明は左記のような技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる(別紙図面一参照)。

(一) 技術的課題(目的)

本願発明は、陰極線管(以下「CRT」という。)などのデイスプレイ装置を有し、問答方式によつて操作される数値制御装置に関する(明細書第一頁第一八行ないし第二〇行)。

別紙図面一の第1図及び第2図は従来のCRTを有する数値制御装置の操作ボードの構成を示すものであつて、1はCRT、2はCRT1の画面を選択するための画面選択キー、3はデータを入力するためのデータキー、4はデータの内容を区別するためのアルフアベツド文字から成るアドレスキー、5はCRT1の画面上に入力されたデータを編集するためのデータ編集キー、6は装置及び制御対象の動作モードを選択するためのモード選択キーであつて、これらの各キーには、それぞれ所定のスイツチが設けられている(同第二頁第一行ないし第一三行)。

前記操作ボードによつて加工プログラムを入力する場合のオペレータの操作手順は第3図に示されているとおりであつて(同第二頁第一四行ないし第一六行)、オペレータによる操作頻度が高く操作手順が煩雑であるのみならず、装置自体も操作ボードの部品点数が多く、配線及び組立て工数が増大し、かつ、スペースが大きくなる問題点があつた。さらに、数値制御装置の機能が向上することに伴つて、対応するスイツチやランプ等が増大するので、前記問題点は一層その不都合の度合いを増す(同第四頁第一八行ないし第五頁第六行)。

本願発明の目的は、従来の装置の前記問題点を解決するために、操作手順を定形化してオペレータの操作負担を軽減すると共に、装置自体の簡素化を図ることにある(同第五頁第七行ないし第一九行)。

(二) 構成

本願発明は、前記問題点を解決するために、その要旨とする構成を採用したものである(手続補正書第三丁第一行ないし第一七行)。

本願発明の一実施例を、別紙図面一の第4図(操作ボードの正面)、第5図(メニユーとして表示される操作項目の例)及び第6図(オペレータの操作手順のフローチヤート)によつて説明する(明細書第五頁第二〇行ないし第六頁第四行)。

第4図の1はCRTであつて、その画面にはメツセージ表示部1a、入力データ表示部1b、設定データ表示部1c、及び複数のメニユー表示部1dがそれぞれリザーブされる。さらにこの操作ボードには、前記メニユー表示部1dの各操作項目に対応する複数個のスイツチを有するメニユー選択キー11と、メニユーのページを手動によつて歩進させるためのメニユー歩進キー12が配設される。そして、前記メニユー表示部1dに表示されるメニユーのページは、メツセージ表示部1aに順次表示されるメツセージの内容によつて、あるいはメニユー歩進キー12を手動操作することによつて、更新することができる(同第六頁第五行ないし第二〇行、手続補正書第二丁第七行ないし第一〇行)。

第5図は、前記メニユー表示部1dに表示されるメニユーの各ページの操作項目の一例を示したものであつて、オペレータは、各ページにおいて、メニユー選択キー11の中から所望の操作項目に対応したスイツチを押すことによつて目的を達成し得る。すなわち、メツセージ表示部1aに表示されるメツセージの内容は、データキー3を用いて入力データ表示部1bにデータを入力することによつて、あるいは、各メツセージのときにメニユー表示部1dに表示されているメニユーの中から所望の操作項目を選択することによつて、順次更新することができるから、オペレータは、メツセージに誘導され、これを更新させながら操作を進めればよい、なお、データ編集用メニユーのようにメツセージに対応させて表示することが困難なページは、メニユー歩進キー12のスイツチを押すことによつて手動で表示し得るように構成される(明細書第七頁第一行ないし第一九行)。

第6図は、メツセージがどのように更新されていくか、すなわち、オペレータはメツセージの質問に対しどのように回答していくかを説明するフローチヤートであつて、プログラムを作成する場合を例示している(同第七頁第二〇行ないし第八頁第五行)。

(三) 作用効果

本願発明によれば、オペレータは、メツセージの質問に対してデータの設定あるいはメニユーの選択により回答することによつて、操作を定形的に順次進めればよい。また、メニユーの選択キーは、各メニユーのページごとに対応する異なつた機能を有するので、操作ボード上のスイツチの数を著しく減少させることが可能である。さらに、メツセージ及びメニユーはソフトウエアの変更によつて処理されるので、機能の変更や拡張を容易になし得る。のみならず、本願発明は、複数のメニユー表示部と複数のメニユースイツチとを一対一に対応するように近接配置したので、メニユー表示部とメニユースイツチとが離れて配置されたものと比較すると、オペレータのメニユー選択操作性が大きく向上し、オペレータの操作負担を著しく軽減させる(同第一一頁第一八行ないし第一二頁第九行、手続補正書第二丁第一一行ないし第一九行)。

2 引用例に審決認定の技術的事項が記載されていることは、原告も認めて争わないところである。

しかしながら、原告は、本願発明と引用例記載の発明は技術分野及び技術的課題を全く異にすると主張するので検討するに、成立に争いない甲第二号証によれば(別紙図面二参照)、引用例記載の発明は、温度あるいは流量のような多数の被制御プロセスを含む複雑なプロセスにおいて使用される型の工業用プロセス制御装置、すなわち、表示手段によつてオペレータに対し明瞭な情報を提供してプロセスの制御を行う装置に関するものであつて(第六頁右下欄第七行ないし第一三行)、プロセスが複雑になるとオペレータはプロセス情報をより有効な方法によつて取得する必要がある(同欄第一七行ないし第二〇行)との知見に基づいて創案されたものであり、そのプロセス制御装置は、CRT表示装置を有する少なくとも一つのキーボードを備え(第七頁左上欄第一八行ないし第二〇行)、オペレータがプロセス情報表示と共同して、複雑な工業プロセス全体にわたる迅速かつ正確な制御を行うことを可能にするものであると認められる(同第一〇頁右下欄第八行ないし第一四行)。

そうすると、本願発明と引用例記載の発明とは、審決が認定しているように、対象とする制御が数値制御であるかプロセス制御であるかの点において相違するものの、共に、CRT表示装置を備えたキーボードを操作して電子計算機を利用する制御技術である点において極めて近接する技術分野に属する上、要旨とする技術的思想においても共通するものがあることが明らかであるから、引用例に記載されている技術的事項を数値制御装置に適用してみることを妨げる何らかの事由があつたと考えることはできない。

3 そこで、引用例によつて開示されている技術内容を、本願発明の技術内容と対比してみると、左記のとおりである。

<1> 前掲甲第二号証によれば、引用例には、左記のような記載があることが認められる。

「オペレータはある特殊なCRT表示に関連してキーボードの操作によりプロセスパラメータを扱うことができる。」(第七頁右上欄第一六行ないし第一八行)

「キーボードはいわゆる可変機能キーのグループを含み(中略)CRTに現われる特定の表示により決定される機能を行う。このような任意のキーで行われる機能はCRTスクリーンの下端に現われる記号により識別され」(第七頁左下欄第三行ないし第七行)

「可変機能キーの配列は、CRT表示より指示されるように、オペレータへ利用可能な作用を識別する。」(第七頁左下欄第一五行ないし第一七行)

「CRTスクリーン上で識別される利用可能なキーボード機能はオペレータ用の符号部として働き、オペレータに利用できる選択の迅速な理解を与え、オペレータは<1>付加的或いはさらに詳細な情報をさがし、または<2>例えば適当なプロセスパラメータを調整することによつて正確な制御作用をとることができる。オペレータは多数の“専用”キーの配置を記憶しなければならないことはなく、表示自体がオペレータを予め計画した方法へ導く。」(第七頁右下欄第一行ないし第一〇行)

「プロセスパラメータの確立または調整はCRT“ループ”表示と組合わさつた可変機能キーボードの操作により達成される。」(第八頁左上欄第一五行ないし第一七行)

「可変機能キーに付けられた意味はスクリーンの底部に表示され、オペレータにより行い得るこれらのループ操作のみを可能とする。」(第九頁右上欄第一五行ないし第一八行)

「可変機能キー182はラベルを貼られてなく(空白)、これは各キーの機能が異なつた操作段階で変わるからである。ラベルはCRTの底線に表示され、現在のプロセス表示に適切な作用を表わす。」(第一二頁左下欄第一七行ないし右下欄第一行)

以上の記載によれば、引用例記載の発明においてCRT表示装置の下端に表示される複数の記号は、選択し得る機能の範囲を示すものであり、オペレータはそのいずれかを選択することによつて希望する事項を制御装置に入力し得るのであるから、右記号は、複数の「回答」、すなわち本願発明におけるメニユー文章と実質的に同一のものということができる。

一方、前掲甲第二号証を検討しても、引用例記載の発明においてCRT表示装置に「質問」が表示されるのか否かは必ずしも明らかでない。しかしながら、CRT表示装置を備えたキーボードを利用する制御技術において、CRT表示装置に質問を表示してキーボードによる入力操作を指示することは、例えば成立に争いない乙第二号証(昭和五三年特許出願公開第六七八四号公報。別紙図面三参照)に示されているように、本件出願前から慣用されていた事項である。のみならず、前掲甲第三号証によれば、本願発明の「質問」、すなわちメツセージ文章とは、「ウンテンモード<メニユー>?」(第八頁第八行及び第九行)、「CRTガメン<メニユー>?」(同頁第一五行)、「プログラムNO<データ>?」(第九頁第一行及び第二行)、「Gコード<メニユー>?」(同頁第六行及び第七行、第一〇頁第七行及び第八行)、「シユウテン―X<データ>?」(第九頁第一二行及び第一三行)、「シユウテン―Z<データ>?」(同頁第一六行及び第一七行)、あるいは「ホジヨキノウ<メニユー>?」(第一〇頁第二行及び第三行)と例示されているものであるが、デイスプレイ装置あるいはCRT表示装置に複数の「回答」が表示される以上、どのような「質問」が前提となつているかは容易に推測し得るところであつて、右程度の「質問」をデイスプレイ装置あるいはCRT表示装置に明示するか否かは、単なる設計事項にすぎないと考えるのが相当である。

したがつて、審決が、本願発明と引用例記載の発明とは画面上に順次複数のメツセージ文章が表示される点において一致すると認定したのは必ずしも的確でないが、右の点が技術的には重要な意義を有せず単なる設計事項にすぎない以上、本願発明のデイスプレイ装置に順次表示されるメツセージ文章及びメニユー文章と、引用例記載の発明のCRT表示装置に表示される情報ないし記号との間には実質的な差異がなく、結局、引用例記載の発明も、制御装置とオペレータが対話するように構成されているということができるから、審決の前記認定の誤りはその結論に影響を及ぼすことはないというべきである。

<2> 引用例記載の発明の可変機能キーがCRT表示装置の下端に表示される複数の記号と位置的に対応して配設されていることは、原告も認めて争わないところである。そして、前項記載のとおり、オペレータは可変機能キーを操作することによつて希望する「回答」を入力し得るのであるから、引用例記載の発明の可変機能キーは本願発明が要件とするメニユースイツチに相当するとした審決の認定に誤りはない。

<3> 前掲甲第二号証によれば、引用例には、左記のような記載があることが認められる。

「固定機能キー180A、180Bはプロセス制御装置を通して単一の機能を有し、適当なラベルがそれらに付けられる。これらのキーは主たる“開始”機能を与える。(中略)特定のキー割当ての例は下記の如くである。(中略)TAG―ループ標識エントリイプログラムの呼出しで、該プログラムはオペレータに五文字のループ標識でキーイングすることにより、プロセス制御装置の任意のループのループフエイスプレート(Loop Full Value Faceplate)表示を手当り次第に選択させ」(第一二頁右下欄第一三行ないし第一三頁左上欄第一九行)

「ランピング(ramping)法は全ての値を増大するように変化させるために使用され」(第八頁右上欄第四行ないし第六行)

「デユアルキーセツトは選択した値を、ランピング(ramping)アツプまたはランピングダウンするために使用される。あるデユアルキーがランピングのために使用されるとき、上側のキーを押せばその値が増大し、下側のキーを押せばその値が減少する。」(第一三頁右下欄第一〇行ないし第一五行)

以上の記載によれば、引用例記載の発明のループ標識入力キー及びデユアルキーは、制御装置に対し特定のデータを入力するものにほかならないから、引用例記載の発明のループ標識入力キー及びデユアルキーセツトは本願発明が要件とするデータスイツチに相当するとした審決の認定にも誤りはない。

3 なお、原告は、本願発明が奏する作用効果を主張するが、その主張するところは引用例記載の発明から容易に予測し得た範囲にすぎず、とりわけ顕著なものということはできない。

4 以上のとおりであるから、本願発明と引用例記載の発明との一致点に関する審決の認定は是認することができ、本願発明は引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定及び判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

画面上に順次、複数のメツセージ文章が表示されると共に、前記各メツセージ文章に対応して、複数のメニユー表示部に、適時、複数個のメニユー文章が同時表示されるデイスプレイ装置と、

適時表示される前記複数個のメニユー文章に対応して設けられた複数個のメニユースイツチと、

前記メツセージ文章あるいはメニユー文章に対応してデータを入力するための複数個のデータスイツチとを有し、

前記デイスプレイ装置の画面上に順次表示されるメツセージ文章による質問に対し、前記メニユースイツチあるいは前記データスイツチにより順次回答することによつて操作される数値制御装置であつて、

前記複数のメニユー表示部と、前記複数個のメニユースイツチとを、一対一に対応するように近接配置したことを特徴とする、数値制御装置(別紙図面一参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面一

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